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95. 『100年たったら』

絵本は絵を読む。
絵は言葉と同じであって説明書ではない。言葉にできない言葉なのだ。
ただ、こうした意味を持つ絵本は意外と少ない。
なので、誰の絵か!は選ぶときの重要なポイントになる。

今月の絵本作家・あべ弘士さんは、旭川動物園に勤めていた元飼育員であり、名を知らしめた「動物たちの行動観察」ができる園づくりに貢献した一人である。
なので、動物のことを知り尽くし生態を捉えた力強い絵が特徴だ。
歌舞伎にもなった「あらしのよるの絵の人」と言えば、わかる人も多いと思う。

さて、今月の絵本「100年たったら」。
ずっと昔、ライオンは動物が一匹もいなくなった広い草原に住んでいた。
あるとき渡り鳥が降り立った。ライオンにはひさしぶりの肉。
しかし「おれは草と虫しか食べないから」と言ってその日から一緒に暮らし始める。
二人は心を通わせお互いを必要とするようになるが、やがて鳥もライオンも息絶える。
またいつか会おうと約束をして。
そこから一〇〇年。
ライオンは岩場に張り付く貝に、鳥は海の小さな波になった。
お互いを感じながら生きていくが、貝は男によって持ち去られ別の道をたどる。
そこからまた一〇〇年。
ライオンは三人の孫のいるおばあちゃんになった。
鳥は赤いひなげしの花として再会するが、花は散って去っていく。
無情な瞬間的な出会いと別れを何回も繰り返し、何度目かの一〇〇年の時、ライオンは男の子として鳥は女の子として生まれ小学校で出会う。
そして、互いに「なんだか前にもあったことがある」と思う。

あべ弘士さんのダイナミックな五感を刺激する絵から、時間の流れも空気の温度も雲の速さも感じることができる。
そして動物の特徴を捉えた描写から、主人公であるやせ細った体と王の風格を持つたてがみのライオンの、その姿に物語の中にある優しさをみることができる。
毎年八月は命を考える絵本を選んできた。今年の命から考えること。
袖触れ合うも他生の縁。
この世はこの縁によって編まれている。
あの人もこの人も。どんな縁だったか過去のことはわからないけれど、出会うべくして出会った縁には意味がある。
この人の縁を乱暴に取り扱ってしまうと、相手を傷つける。その傷はまた未来の縁となる。
せめて一年に一度命の八月に、今目の前にいる大好きな人と、このご縁の始まりに「どんな約束をして生まれてきたのか」を考えてみたい。
そうすることで、もっと大切なことに気付くかもしれないから。

有限会社ウーヴル(https://oeuvre.jp/
代表取締役 三宅 美穂子

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