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知財の「入り口から出口まで」を 支援できる仕組みづくりに邁進

事務所設立二五年で九人の弁理士を含め二〇人のプロ集団を作り上げた所長の加藤久氏が、昨年末で代表を退き、経営を次世代に託した。
加藤氏は会長として、ライフワークともいえる「知財制度を活用した中小企業の活性化支援」に注力する。
加藤氏に代表交代の経緯と今後の取り組みについて話を聞いた。

時代の変化に対応できる組織に

―昨年末で所長を退任し、会長になられました。
まずは、その経緯から聞かせてください。

加藤

組織が生き残っていくためには、どの業種であれ時代の変化に対応し続けなければなりません。
私が事務所を設立した二五年前とは、いろいろなものが変化しましたし、感覚も随分と違ってきました。そうした時代の変化に対応するために組織の若返りが必要であるということです。

―会長として、どのような役割や活動をされるのですか。

加藤

今回、次の世代に引き継ぐと決め、バトンを渡した以上は形だけの代表交代では意味がないと思いました。どのようにすれば引き継ぐ人たちが希望を持って事業に取り組み、お客様のためになるかを必死に考えました。
そこから、以下の三つのことを決めました。
①健康上の問題がなければ最長五年間は会長として経営をサポートする。
②次期代表のほかに経営に参画する者二名を指名し、合計三名で経営会議を構成。
重要事項はここで決定する。私は意見を述べるが決定権は持たない。
③会長として不適切と判断された場合、経営会議の議決によりいつでも解任することができる。
要は、私がいなくてもやっていける体制を早く構築したいという考えから、年齢的にも体力的にも余力があるうちに実現したいと思ってのことです。
弁理士業界はダイナミックに変化している時代ですし、その変化に対応できなかったら生き残っていけません。

九州の知財は国内マーケットの一%以下

―業界の一番の変化は国際化ですか。

加藤

国際化はもちろんあります。その根底にあるのは、国内マーケットの縮小です。日本国内での知的財産の申請率を見ると、九州は日本全体の〇・九%に過ぎません。
一%にも満たないのが現実で、しかも、この割合は下がっています。
経済規模で見ると、九州は一割経済だと言われていますが、知的財産の分野で言えば、現実はその一〇分の一です。

―事務所を開設して二五年にわたって、中小企業の知的財産権(以下、知財)の保護と活用の支援と知財普及の啓発活動を続けて来られました。
その功績を認められ、二〇一四年には「知財功労賞 特許庁長官表彰」を受賞されました。
今後は、九州経済の活性化のためにも、こうした知財の啓蒙と普及など対外的な活動が増えるのではありませんか。

加藤

今後は、私のライフワークである「知財制度を活用した中小企業の活性化支援」にまい進する覚悟ですし、そのための環境を整えたいということも今回の所長退任の理由の一つといえます。

―日本経済は中小企業が支えていると言われているなかでも、九州から生まれる知財に関しては経済規模と比べると、はるかに少ないということですね。

加藤

それには歴史的な背景もあります。
例えば、下請企業が技術を発明しても、大企業がそれを権利化していた時代がありました。
下請けとしても、元請けの大企業との関係もあるし、新商品を作っても自力で市場を開拓しなければならないという苦労が伴います。
大企業の下で言うことを聞いていれば存続することができた時代が戦後、何十年も続いていたわけです。
しかし、今はもう大企業も面倒はみてくれないということがはっきりしている。
だから、中小企業も自分で生きていく方法を考えなければならない時代です。
その一つが、自社で価格決定権を持てるように技術など知財を所有することです。
私は、「一社一知財運動」をやろうと思っていますし、そうすると中小企業を取り巻く環境も変わってくると考えています。
下請けと言っても、九州には技術的にもすごい技術を蓄積している会社がたくさんあります。
しかし、その技術を生かして何をするかという次の一歩が踏み出せないでいる。

「出口」までの支援が必要

―一歩を踏み出せない理由は何ですか。

加藤
自社の技術やアイディアが知財になるかどうか、商品として売れるかどうかが分からないからだと考えます。
そこに、我々専門家のアドバイスが必要になるのです。
どうすれば知財として成立する可能性があるのか、さらには、マーケティング調査など市場開拓まで見据えた支援ができれば、その一歩が踏み出せるようになります。

―以前から、知財の活用、つまり権利の保護だけでなく知財の流通や知財を使った商品の開発と市場開拓など、いわゆる「入口から出口まで」の必要性を訴えてこられました。

加藤

特許ではなく、特許の周り、つまり、自社の強みを発見して新商品に育て、どう売るかという、
新商品の開発から事業化までが必要だということです。
そうでなければ、お金を生みません。
事業化までの支援の必要性を訴えていますので、私自身も実際に事業化のための研究を重ね、
一社一知財、そして出口までの仕組みづくりに携わってきました。
多くの失敗を経験しましたが、そうした失敗のなかから、どうすれば良いのかといったものがおぼろげながら見えてきたように思います。
今年からは、この開発から出口づくりまでの支援に一層、注力します。
技術的なことだけでなく、デザインや補助金、保険の活用など、様々な支援を含んだプラットフォームづくりを進めます。
技術的なことだけでなく、プロダクトデザインの重要性はこれら益々高くなります。

知財の権利化の可能性も追求

―良い物を作ることは大前提ですが、それを如何に売るかという発想も同じように必要です。

加藤

良い物だったら売れるとは限りません。
経験しないと解からないものです。
モノを作る人は、思い入れが強すぎる傾向にあるためマーケティングなど販売に必要な戦略や投資が伴っていない場合も多々見受けられます。
作り手の思いや尊厳を守りながら、マーケットにあった商品を作るのは難しいことですが、そこに多くのビジネスチャンスがあると考えています。
どんな小さな会社でも、自社で価格を決められる独自の商品を持ちたいという思いは持っているはずですから、そこに訴求するサービスの提供を追求します。
知財の流通だけでなく、知財の権利化の可能性の追求も重視しています。
開発者は権利化できるかどうかの判断がつかない、または、権利化は難しいと思い込んでいるものでも議論を重ねているうちに権利化の可能性が見えてくることがあります。
そこに特許やビジネスの種があるものです。そうした気づきがあれば、実現するための手段は幾つもあります。

―ITの発達と普及で士業の世界でも競争が激しくなっているように思います。

加藤

我々弁理士の業界はこれまで、経営感覚を問われることは少なかった。
しかし、今は業界内で競争が始まっています。価格競争も起きていますし、当事務所の案件でも価格競争に巻き込まれることもあります。
我々としては、価格競争に価格で対抗するのではなく、今のサービスに付加価値を付けて、より高い収益を上げる方が良いと考えています。
時代が急速に変化するなか、新しいビジネスがどんどん生まれますから、我々も感性を豊かにしておく必要があります。

―中国が知財の分野でも大きく伸びているようですね。

加藤

中国は知財大国となっていますが、国作として五年後には「知財強国」になると打ち出しています。
形式的なものではなく、今の勢いなら間違いなく知財強国になると思います。
小学校から知財教育をする程の力の入れようです。
今はアメリカから知的財産で押されていますが、五年後はその関係が変わっているかもしれません。
中国の知的財産権の申請の件数が多いのは、日本と違って各省が補助金を出すなど国策として取り組んでいるからです。
補助金を出さずに本当に競争力のあるものがどれだけ出てくるかは五年後、十年後の話ですが、玉石混交の中には玉があります。
韓国も知財を重要視しています。
そこに力を入れないと国として大きな損失を生むという考えは持っています。

―これから、特に力をいれていきたい分野はありますか。

加藤

特定の分野というのはありませんが、元々、日本人が得意な物づくりを大事にしたいという思いはあります。
ITやAI時代であればこそ。
日本も昔は作れば売れる時代だったが、今は物が余っている。
だから、選ばれなければならない。
選ばれるために知財が大事だというのが、世の中の流れにもなっています。
選ばれるだけの何かがないといけない。
そういうことが大事だということを啓蒙することも我々の大きな責任だと思います。

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