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『沖縄文化論 忘れられた日本』

 

一九七二年。
沖縄返還の年に一冊の本が再版された。
稀代の芸術家・岡本太郎が沖縄に魅せられて記した本書である。
初版は「忘れられた日本 沖縄文化論」と主題と副題が逆であり、一九六一年に出版された本書は、毎日出版文化賞を受賞している。
出版のきっかけは、岡本太郎が沖縄に出向く際、「せっかく行かれるなら、沖縄の現状のルポを書いてください」と出版社に頼まれたことだった。
しかし、とても現状のルポなんかでは収まらない想いがあふれ出し、現代まで読み継がれる名著となった。

岡本太郎は、沖縄のなかに日本の古層・源流を感じたという。
その大きなきっかけとなったのが、御嶽(うたき)と呼ばれる聖域のなかでも、最も神聖視されている久高島の大御嶽を案内されたことだった。
岡本太郎は案内された御嶽を見回して驚愕した。
なにもないのだ。
祭壇はおろか、巨石や巨木のようなご神体も、特別な景観も、なんにもない。
本当にただ草木が生い茂るだけの空間であったのだ。
この空間を聖域として神聖視し続け、文化として脈々と受け継がれていることに、ふるえあがったという。

このなにもない御嶽は、琉球王朝時代につくられた人工的な文化財よりも、いっそう「実在的」であり、そこに日本人の精神の源流を見たという。
沖縄は遠く離れた異国という感覚は今も昔も、あまり変わっていないかもしれない。
しかし、沖縄には日本人が忘れてしまった「日本らしさ」、そして日本の精神文化の原点があるのではないか。
岡本太郎の目を通して沖縄にふれることで、忘れていた「なにか」を発見することができるかもしれない。

(株式会社梓書院 前田 司)

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