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使用済紙おむつリサイクルのパイオニア

高齢化が進む日本では、大人用紙おむつの消費量が増加している。
現在、使用済紙おむつの大半は焼却や埋め立て処分されているが、環境省はこのほど、使用済紙おむつのリサイクルの有効性に着目し、自治体がリサイクル事業に取り組む際のガイドラインを発表した。
トータルケア・システム㈱は、水溶化処理による使用済紙おむつのリサクル技術を開発、二〇〇五年より事業化し、実績を上げてきたが、今回、ガイドラインが策定されたことで、同社のリサイクル事業が大きく前進しそうだ。
坂口弘典常務に話を聞いた。

完結型マテリアルリサイクルシステムの構築を目指す

―このほど、住友重機械エンバイロメント㈱、凸版印刷㈱と使用済紙おむつをパルプやプラスチックなどの再生資源として再利用する「完結型マテリアルリサイクルシステム」の構築、事業化に向けた三社協議の開始を発表されました。
まずは、三社連携の経緯や各社の役割について聞かせてください。

坂口 今回の発表は、三月三一日に環境省が自治体などを対象に発表した「使用済紙おむつ再生利用等に関するガイドライン」を受けてのものでした。
三社協議開始について発表したのが四月七日で、政府が新型コロナウイルス感染拡大防止のために緊急事態宣言を発令した日と重なってしまい、ほとんど話題にならなかったのですが、「この状況下で、明るい話題を提供出来て良かったですね。」と言っていただいたところもありました。

使用済紙おむつは、自治体がほぼ一〇〇%を焼却か埋め立てという形で処分していました。
しかし、リサイクルが可能となり有効性も認められることから、国としてもリサイクルできる仕組みを作っていこうという考え方が強くなりました。
現在、使用済紙おむつは、一般廃棄物として取り扱われるケースが多く、その場合は自治体の管轄、責任で処理される事になります。
そのため、自治体に向けた指針をガイドラインという形で出したわけです。
各社の役割について、当社は、使用済紙おむつのリサイクル技術・ノウハウ提供。
住友さんは、水溶化処理設備のプラント設計および施工。
凸版さんは、再生資源を最適にアップサイクルするためのプロセスコントロール、用途開発、活用、販売という形を考えています。

リサイクル事業で一五年の実績を持つ

―使用済紙おむつを国内で初めて事業化したのは、トータルケア・システムさんですから、ガイドラインづくりにも関わってきたのですか。

坂口 環境省はガイドライン作りに二年程前から取り組んでおり、有識者会議が開催される前年、紙おむつメーカー等を集めた意見交換会が開催されたのですが、その時から我々も事業者代表として参画してきました。
ガイドラインがリリースされていけば、当然、いろんな自治体で紙おむつリサイクルを検討、事業化していくでしょう。
そのような時に、当社としても自治体や企業からの問い合わせや依頼への対応と提案ができる用意をしておく必要があります。

現在、水溶化処理による紙おむつリサイクルを事業化できているのは日本で唯一、大牟田にある当社のプラントだけです。
燃料化や同じようなやり方で実証化しようとする動きはありますが、実際に事業化して一五年の実績を持っているプラントは日本では大牟田にしかありません。
ですから、紙おむつのリサイクルを検討されるところからは、大牟田まで視察に来られます。
住友さん、凸版さんも大牟田に来られて、「これだったら行ける」というふうに思われたのだと思います。

住友さんは元々、国交省が主管している下水処理場や環境省管轄のし尿処理場のプラント設計・施行などを手掛けています。
環境省が紙おむつリサイクルを検討しているのとほぼ同時期に、国土交通省も使用済紙おむつの処理を別の視点から解決しようと検討を始めました。
単身の高齢者が使用済みの紙おむつを長時間家の中に置いておくと臭いや衛生的な問題が生じます。
また、高齢者がそれをゴミ置き場まで持っていくのは大変です。
その解決方法の一つとして、住友さんが大牟田工場に視察に来られたというのがきっかけです。
実際に工場で水溶化処理によってリサイクルできているのを見て、「これを進めていくべきだ」という考え方にまとまったのだと思います。

凸版さんは、持続可能な社会をつくっていくための資源や街づくりを一つのテーマにしています。
紙おむつのリサイクルを事業化した当社の長武志社長も「紙おむつのリサイクルをまちづくりにつなげていくべきだ」と言い続けていますので、使用済紙おむつのリサイクルは街づくりにつながるという両社の理念が一致したわけです。
凸版さんは、リサイクルして出来たものから研究開発の中で何かしらの商品に変えていくことを手掛けられます。

 

まずは、福岡県内でのプラント設置

―トータルケアさんは、独自にリサイクルシステムを構築されてきたわけですから、単独でも出来る事業ではないですか。

坂口 今回は、使用済紙おむつのリサイクルシステムを全国に広げていくために、プラントを全国的に設置していくわけですが、完結型のリサイクルシステムをつくり上げるには、素材開発や商品開発など研究開発からマーケティング、販売など「入口から出口」までの諸問題を解決するために、三社を核にして企業や関係者との連携はもっと広げていく必要があると考えています。

そのためにも、三社できちんとした仕組みを作っていくことが重要です。
当初の目的は、まず、大牟田に続くモデルプラントを福岡県内にもう一基作り上げて、そこを自治体やこれから事業化を検討するところに見ていただきたいと考えています。

―モデルプラントの候補地はどのあたりを考えていますか。

坂口 環境省も自治体を対象としたガイドラインとして示していますから、我々民間企業が独自に、立地する場所を決めるのではなく、国や自治体と相談、連携しならがやっていくものだと考えています。

今回のガイドラインでは、使用済紙おむつのリサイクルは、施設整備費に対して、二分の一もしくは三分の一の交付金対象事業となる事が明記されていますから、そう意味では前向きに検討する自治体が増えると期待しています。
元々、相談を受けていたところなどでは、これで本格的な検討が進むでしょう。

―プラントの運営は自治体が行うことになるのですか。

坂口 単純に公設公営という形だけでなく、自治体が取り組むことに対して、我々として関わっていくというパターンや民間委託という形など、いろんなケースが出てくると思います。
一五年前に始めたときは物珍しく思われていたことが、数年先には紙おむつリサイクルが当たり前の時代になると思います。

紙おむつリサイクルは街づくりに貢献する

―SDG`sの考え方が、世界的に関心を集めていますから、紙おむつのリサイクルにとっては追い風になりそうですね。

坂口 目指しているのは、全ての素材のマテリアルリサイクルです。
燃やして燃料にするというものではなく、次のモノに生まれ変わっていく仕組みですから、SDG`sの考え方にはマッチしていると思います。
水溶化処理によって燃やさなくていいということは、二酸化炭素削減効果というメリットもあります。

―社長が思い描いてきたものに、やっと時代が追い付いてきたという感じですね。

坂口 紙おむつのリサイクル事業を始めた当時は、おむつのリサイクルなど想像されなかったことですが、大木町でこの事業に取り組まれたことは、大きな力になりました。

―大木町は、二〇一一年に家庭で出た使用済紙おむつの分別回収、リサイクルに全国で初めて取り組み、さらに、使用済紙おむつの回収に地域のシルバー人材を活用したことは大きなニュースにもなりました。

坂口 シルバー人材の活用は画期的なことでした。
リサイクル成功のかぎは、きちんと分別してもらうことで、そのためには、燃えるゴミと使用済おむつを分けてもらう必要があります。
大木町では、使用済紙おむつを燃えるごみとして家の前に出していたものを、拠点回収ボックスを設置して、そこに持ってきていただくというやり方に変わりました。
使用済紙おむつは水分を含んでいるため、かなりの重量があります。

そのため、高齢者の中にはそこまで持っていくのが大変だという方もいらっしゃる。
そこで、シルバー人材センターに回収する業務についての許認可を与えました。
これは、どこの自治体さんに説明しても驚かれます。

そうやって、一歩家の中に入る事によって、いろんなことが見えてきます。
単に、おむつを持って帰るということだけでなく、安否確認や何かしらの軽作業を手伝うなど、高齢者の生活サポートにもつながっています。

大木町は、紙おむつのリサイクルに地域が関わることで街づくりにもつながっている良いモデルだといえます。
今回の環境省ガイドライン策定有識者会議のメンバーに大木町が自治体代表として選ばれたのも、そういうまちづくりへの取り組みが評価されているのだと思います。

台湾の紙おむつメーカーと提携

―話は変わりますが、昨年一一月に台湾の大手衛生材料メーカー「KNH」と業務提携の覚書(MOU)を結びましたね。

坂口 KNHは、台湾における紙おむつのトップメーカーで、台湾だけでなく中国にも展開しています。
元々、中国、台湾の紙おむつメーカーの業界団体と日本の紙おむつメーカーを中心とした業界団体が交流を図っていて、その一環で日本に視察団が来られ、大牟田の工場も視察されました。
KNHも視察団のメンバーでした。
後日、同社から連絡があって、「使用済紙おむつのリサイクルは、メーカー責任でやっていくべきことだ」といわれて、台湾でリサイクル事業に取り組むことになり、昨年一一月に業務提携を結びました。

同社は、所有する台湾の工場に隣接する形でリサイクル工場をつくりたいと計画しています。
そこで、リサイクルしたものを段ボールや何かしらの形で自分たちの商品として活用していきたいという考えを持っておられるようです。
我々は、台湾で新しく検討しているものに対する技術的なアドバイスや技術供与を行う予定です。

福岡発モデルとして輸出の可能性も

―高齢化に伴う使用済紙おむつの問題に頭を痛めている国や地域は、今後増えるでしょうから、日本発の事業として輸出できるモデルだと思います。

坂口 日本では、ガイドラインが発表されましたが、台湾では紙おむつリサイクルの基準が整備されていません。
日本の場合、ガイドラインができるまでに時間がかかりましたが、ガイドラインが示されたことで、海外への情報発信もできるでしょう。
日本モデルを参考にして取り組むこともできると思いますので、現地での法整備なども早く進む可能性はあります。
ましてや、現地のメーカーさんが自らやりたいということですから、そういった働きかけもできると思います。

海外で紙おむつのリサイクルに取り組んでいる事例は二、三あるようですが、当社のように事業として成り立っているかどうかは分かりません。
当社が事業化してきた仕組みは、世界的にも先行していると思いますから、海外にインフラとして輸出できる可能性があります。
世界的にも珍しい取り組みですから、日本モデルの輸出についても環境省としては期待されているところではないかと思います。

―事業としてやってくることができたポイントは何だと思いますか。

坂口 この事業は、使用済紙おむつが集まって来ないと成り立ちません。
一五年前は、紙おむつのリサイクルに対しては、まだ早いという考え方もあったようです。
しかし、多くの病院、介護施設がこの考え方に賛同し協力してくださったことから、工場を立ち上げてすぐに五〇%を超える稼働率を達成できました。
こうした関係者の理解や支援を得ることができたのは大きかったと思います。

元々、トータルケア・システムという会社は、紙おむつのリサイクルに取り組んでいこうという理念のもとに、製造、販売、排出に関わるそれぞれの事業者の方々に参画していただき、立ち上げた会社です。

住友さんや凸版さんもそうですが、理念や考え方を共有できたことが最大のポイントだと位置づけていますし、それができなければ事業化は上手くいかないと思います。

今後は、二基目を早く実現させることが重要だし、使命でもあると考えています。

―福岡発の使用済紙おむつのリサイクルモデルが国内はもとより、海外でも広がることを期待しています。

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