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食と教育、研究の強化でブランド力のさらなる向上を目指す

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中村学園大学・中村学園大学短期大学部
学長 久保 千春 氏

九州大学総長を務めていた久保千春氏が昨年11月、中村学園大学の学長に就任した。
医師として研究や治療現場で実績を積み、加えて九州大学病院長、九州大学総長として組織運営に携わった手腕に期待が寄せられる。
「食の中村」「就職の中村」とした知名度の高い同大学のブランド力を「教育と研究の強化でさらに高めたい」と語る久保氏に学長就任の経緯と今後の大学運営などについて聞いた。

医療と経営マネジメントの経験を活かせる場

―昨年9月末、6年間務めた九州大学(以下、九大)総長を退任され、11月1日に中村学園大学(以下、中村)の学長に就任されました。
まずは、学長就任に至った経緯から聞かせてください。

久保 九州大学の総長を退任するにあたり、医師として医療機関に戻るべきか、それとも大学に残るべきかを迷っていました。
そのような時に、中村量一理事長からお話をいただいたのがきっかけでした。
中村は食と栄養の研究に力を入れており、教育学部もあります。
ここなら、私のこれまでの経験を活かせるだろうと考え、お引き受けした次第です。

私は身体と心の結びつきの重要性に惹かれて、心身医学の道に進みたいという思いを持っていました。
九大心療内科に入って2年間の研修の後、細菌学教室で免疫学の研究を行いました。
1982年から2年間はアメリカに留学し、栄養と免疫、老化について、食事が病気の発症や経過にどう影響するかという研究を行いました。
例えば、マウスを使った研究では、制限を設けずに自由に食べさせるマウスとビタミンやミネラルはきちんと与えて、トータルのカロリー摂取量を6割、いわゆる腹6分目に抑えたマウスを比較します。
すると後者の方は寿命が2倍に伸び、さらに、脂肪の摂取を制限すると3倍まで伸びるという研究成果を得ました。

帰国後、南福岡病院での勤務を経て、八八年から九州大学病院(以下、九大病院)の心療内科に戻り、身体と心の結びつきの研究に取り組みました。
臨床では過敏性腸症候群や胃潰瘍、高血圧、拒食症や過食症といった摂食障害、慢性疼痛、慢性疲労症候群、不安症、うつ病、不眠症などストレスが関係するような病気の診療に携わりました。
また、拒食症などの摂食障害の人たちは、幼少期の生活や環境が大きく関係します。
幼少期のストレスが成長にどのような影響を与えるかという研究にも取り組みましたので、教育と医学というテーマには長年関心を持ってきました。

こうした医療の研究や医療現場で患者さんと向き合った経験、そして、九大病院長、九大総長として12年にわたりマネジメントの経験を積んだことがここで活かせると考えています。

―中村理事長からは、どのようなことを要望されましたか。

久保 中村の研究のブランド力向上を期待されています。
私としては教育と研究、産学官連携、国際化の四つを柱に「中村」のブランド力を高めていきたいと考えています。

コロナ禍で、学生に様々な支援を実施

―コロナ禍での学長就任となりました。学園ではどのような対応をされましたか。

久保 大学ではどこも一緒だと思いますが、まず、新型コロナウイルスの緊急対策本部会議を月に2回以上開催し、様々な事象への対応を迅速に協議しています。
全学的な対応として、コロナ感染拡大防止のための行動指針を作成しました。
感染の少ない時期から感染が拡大した際の警戒レベルまで5段階に分け、それぞれ段階別に授業の形態や課外活動、学外実習、学生の入構、教員の研究、部外者の立ち入りなど、どう対処すべきかを細かく決めて実行しています。

学生に対する取り組みは、大きく3つあります。
学修支援と授業料の支援、そして生活支援です。
昨年度は前学期の大半がウェブ授業となりました。
ウェブ環境が整っていない学生には、ノートパソコンや携帯Wi-Fiを貸与しました。
授業料の支援では、大学独自の支援と日本学生支援機構からの経済的な支援を行いました。

3つ目が生活支援です。
9月には、1人当たり1ヶ月分(20回)の食券を配りました。
そして、11月から3月までの期間では、学生食堂として運営している「食育館」の代表的なメニューである「1汁3菜ランチ」を無償で提供しました。
「1汁3菜ランチ」は、日本の伝統を大切にしつつ健康づくりの役に立てるように工夫し、主食であるご飯と汁、それにおかず3種からなる和食の基本形式といえるメニューです。

無償化を続けるというのは難しい面もありますので、今後は関係団体などの協力もいただきながら支援を継続できればと考えています。
また、本学園には病院や企業、施設の給食受託事業を手掛ける中村学園事業部がありますので、オール中村としての取り組みにつなげたいです。

―精神的に不安定な学生さんのケアも必要ですね。

久保 長引くコロナ禍で精神的な不安を訴える学生は増えています。
特に、不眠や体調不良を訴えて相談室を訪れる新入生が増えていますから、カウンセラーを増やすなどして対応しています。

教育と研究の強化でブランドを押し上げる

―近年、デジタル化やグローバル化が進み、世の中が大きく変化しています。これからの時代における大学の役割について、どのように考えていらっしゃいますか。

久保 本学は、「食の中村」、「就職の中村」として高い認知度を保っていますが、さらに、教育と研究を強化して新時代に適応できるような人材を育成することが必要です。
例えば、教育によって食に関する優秀な人材を育て、研究ではしっかりとしたエビデンスを出すなどの取り組みを通して、食をキーワードに人々の健康や生活の質の向上に寄与する人材です。
あわせて、グローバルな視野で物事を捉え、ローカルの視点で行動できる「グローカル」な人材の育成も不可欠と考えています。

―管理栄養士の国家試験合格者数が西日本で第1位、全国でも第2位の実績をあげるなど、教育の成果が出ていますね。

久保 昨年度は管理栄養士の合格者が210人、合格率は977%でした。
就職率も90%以上で、就職を望む人のほとんどが希望を叶えています。
そうやって「食の中村」「就職の中村」のブランドを守ることができています。

―就職先は、主にどのようなところですか。

久保 栄養科学部であれば、病院や食品会社、例えばカゴメやヤクルト、雪印など大手メーカーにも就職しています。

食に加えて教育でも実績を残しています。
教育学部では、児童幼児教育学科で教育者・保育者を育てていますが、2021年度の小学校教員採用試験では受験者125人のうち95人が現役合格を果たしました。

―4月に「日本秘書クラブ会長賞」と「フードスペシャリスト資格認定特別表彰」を受賞されています。
こういう賞の獲得は、学校のブランド力を押し上げる要因にもなりますね。

久保 資格を持つというのは大事なことです。
また、そういう賞を取得すると本人の励みにもなりますし、大学のブランドも向上します。

―産学官連携や地域との連携も大学に求められる重要な役割でもあると思います。

久保 学内には東洋医学の薬膳科学研究所という施設があります。
研究所内各部門の専門性を強化すると共に、全部門が集結して、基礎研究から実証研究を有機的に進めています。
こうした専門性を活かして食産業との連携も進めています。

また、地域社会と連携して地域の方々向けのセミナーや共同プロジェクトなども進めています。

―今年から3年サイクルの中期戦略である第8次中期総合計画がスタートしましたが、第7次計画との違いは何ですか。

久保 教育を例に挙げると、第七次計画まではグローバル人材の育成などを目標にしていましたが、第8次計画では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する人材の育成を加えました。

―学長に就任して半年がたちましたが、国立大学の総長と私立大学の学長ではどのような違いがあると感じますか。

久保 国立大学の総長は教学と経営の全てにおいて責任を負う立場にあります。
一方、私学は理事長が経営面で多くの責任を持ちますから、学長としての教育研究の責務に専念できると思います。

九大総長時代は、教育研究、国際化、産学官連携、地域連携など、幾つものアクションプランの実現のために力を尽くしました。
加えて、現在の伊都キャンパスへの移転が完成する時期とも重なりましたので、毎日が多忙を極めていました。現在、少し自分の時間が持てるようになりましたので、中村のブランド力向上のために力を尽くしたいと考えています。

ペシャワール会の中村哲さんとは同級生

―久保学長は昨年亡くなられたペシャワール会の中村哲さんと九大の同級生で、葬儀では弔辞を読まれたそうですね。

久保 中村さんとは、学生時代に一緒にへき地医療に行ったことがあり、時に話をする機会がありました。
そんなとき、中村さんは「愛が大事である」と語っておられたのが印象的でした。
中村さんはクリスチャンですから、キリスト教的な発想で「愛が大事だ」と言われたのだと思います。

また、私が総長になった年に、中村さんは特別主幹教授になられ、毎年、学生や市民の方々に向けて講演会を開催しました。
そこで、アフガニスタンでのペシャワール会の活動を話していただきました。

とても不思議な体験もありました。
中村さんがなくなる2ヶ月前の10月に同窓会が開催され、私も久しぶりに出席しました。
中村さんも出席されましたが、「今まで出席したことはなかったが、案内のはがきに『会える時に会っておこう』と書かれていた。
今回、会っておかないと今後会えないかもしれないと思ったから、この同窓会に出席するためだけに帰国してきた」と話されていました。
閉会後、しばらく一緒に歩き天神で別れたのが、中村さんとの最後になりました。

中村さんが亡くなられた時、私は九大総長でしたが中村さんの功績を残したいと考えて、3つのことを企画しました。
1つは、学内の中央図書館に「中村哲医師メモリアルアーカイブ」として映像などで紹介する展示スペースを設置し、中村さんの著書や遺された言葉を集めた「中村哲著述アーカイブ」をインターネットで公開することです。
2つ目は、基幹教育科⽬として「中村哲記念講座」を開講し、1年生が学ぶ機会を設けました。3つ目は公開講座を開催することです。

―「愛」のために行動された偉大な方だと思います。
今後、中村学園大学で久保学長が掲げられる食と教育、研究において社会に貢献する人材を一人でも多く育てていただくことを期待しています。

 

名 称  中村学園大学・中村学園大学短期大学部
住 所  福岡市城南区別府5-7-1  TEL.092-851-2531
創 立  1953年12月
代 表  理事長 中村 量一
学 長  久保 千春
グループ 学校法人中村学園
中村学園女子中学・高等学校、中村学園三陽中学・高等学校、中村学園大学付属あさひ幼稚園、中村学園大学付属壱岐幼稚園、中村学園事業部
URL   https://www.nakamura-u.ac.jp/

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