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不世出の料理家が紡いだ料理界の論語

 

東京は日本橋に、日本料理の最高峰と謳われるお店があった。
希代の料理人・西健一郎氏が1967年に開業した、「京味」という京料理屋である。

当時はまだ京料理も、カウンター割烹というスタイルも一般的ではなく、日本料理はお座敷で食べる、というのが主流だった。
開店当初は毎日開店休業のような状態であったが、次第に押しも押されもせぬ名店へと成長していき、
京味の成長と共に、カウンター割烹のイメージも、新橋のイメージも変わっていったという。

実に多くの著名人たちが足しげく通い、仕事のスケジュールはさておき、京味の予約にあわせて年間の予定を調整するという方も多数おられたそう。
それほどまでに、西健一郎氏の料理は人々を魅了した。

 

 

2019年に西健一郎氏の逝去に伴い、惜しまれながら閉店した京味だが、その遺伝子は数多の弟子たちに受け継がれている。
そして本書こそが、京料理の心、料理人・西健一郎氏の流儀と生き様を今に伝える、唯一無二のバイブルとなった。
京味に通った常連の1人である著者が書き綴った本書は、さながら孔子の言葉を弟子がまとめた、料理界の論語のよう。

「季節の素材が料理を教えてくれる」「おいしいもんと珍しいもんは違う」「死ぬまで勉強」。

西健一郎氏が常々口にしていた3つの教えだ。本書は料理を通して、日本人が大切にしてきた心とはなにかを問いかける哲学書なのかもしれない。

 

(株式会社梓書院 前田 司)

 

『京味物語』
野地秩嘉 著
光文社 1800円+税

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